「ストーリーテリング」の勉強を始めてから、「カラーバス効果(一つのことを意識し始めると、日常の中でそのことに関する情報が自然と目に留まるようになる現象)」なのか、世の中で「ストーリー」を使った広告がよく目に留まるようになりました。中でも顕著なのは企業のCMです。今日は2つの例を紹介します。
1つ目はアメリカのExtra GumのCMです。
ハイスクールで出会ったSarahとJuanが恋に落ち、その後の紆余曲折が2分弱のストーリーで描かれています。この2分間の間に製品について紹介する場面は一切登場しません。でも、背景にさりげなく、「Extra」のガムが脇役として登場しています。そして、恋人たちの出会った時の甘酸っぱい気持ち、離れ離れになり、すれ違いが続く切ない気持ち、再会した時の嬉しい気持ち、が余すところなく表現されています。実際に見終わった後、私もすっかり「SarahとJuanの世界」に感情移入していました。次にガムを買うことがあれば、きっと「Extra」を買います!
もう一つが日本の相鉄線のCMです。こちらは私の属しているオンラインサロンのメンバーの方が投稿で紹介されていました。彼女も私も共通するのは「娘を持つ親」であるところです。自分たちの娘が、だんだん成長して巣立っていく様子に重ね合わせてみると、「今を大切にしなくちゃ」と思わせるのです。言動が面倒臭いと思ったり、ケンカして腹を立てている場合ではないと・・・。個人的には相鉄線はかつて中1まで住んでいた街で利用していた路線です(登場する駅はなんと隣町でした!)。そのことも、より共感したポイントの1つでした。たとえ日本に住んでいたとしても、実際に私が今相鉄線を乗る機会は極めて少ないと思いますが「やっぱりいいな、相鉄線。今度帰国したら(わざわざ)乗りに行きたいな」いう気にさせてくれるCMでした。
ちなみに、これらのCMのキャッチコピーはExtraは「Give Extra, get Extra(Extra Gumを誰かにあげてみて、何かが始まるよ)」相鉄は「いってらっしゃい、君の思うところまで」です。前者は私の意訳ですが、このCMの意図するところは大体合っているのではないかと思います。
2つのCMに共通するものは何でしょうか?
それは「見る人が感情移入し、共感する」ということです。この2つの動画の設定そのままの状況でなくても構いません。でも「どれが一つ」でも「自分と重ね合わせる経験があれば」人の心が動くのです。実際に(数ある商品の中で)この会社の製品を買おう、と思えるのです(電車の場合は地域が特定されますが・・・)。
もちろん、動画のCMは言葉では伝えきれない、映像、音楽がある点で、より人々の心に訴えるパワーがあります。でも、言葉でも、きっと同じことを心がければ人々の心に響くのではないでしょうか?
これらをまとめると、同じことを文章で伝える場合、以下を意識する必要があります。映像を補うことを意識するということです。聞き手がCMのように頭の中でビジュアル化できるような伝え方ができれば最高ですね。
1.具体的な情景の描写
2.感情の動き(読み手/聞き手の共感を呼ぶエピソード)
3.伝えたいメッセージが明確であること
例えば、Extra Gumの場合は以下のようになります。
私と彼が出会ったのは高校のキャンパスでした。ある日荷物をたくさん抱えた私は、ロッカーの前で大量の教科書をぶち曲げてしまったのです。派手にやってしまった私を手伝ってくれたのがJuanでした。しゃがんで教科書を拾いながら、彼がニコッと笑ってくれたスマイルは私の心を射抜きました。
その後私たちは付き合うことになりました。プロムに二人で出たり、図書館で勉強をしたり、ケンカしたり・・・そんな時仲直りのきっかけになったのはガムでした。仕事を始めてからは、私たちは遠距離になりました。ビデオチャットで顔を見ることはできましたが、遠く離れてしまったことを・・・。そしてそんなある日~
というような感じでしょうか?
もちろん、人前でラブストーリーを語る機会はそう多くはないかもしれませんが、イメージとしてはこのような感じです。
「ストーリー」を効果的に使うことができれば、「ギヤップ」を埋めることができるといいます。ここでいうギャップは「商品を買って欲しい」企業側と、商品を選択する立場である顧客側とのギャップです(スピーチであれば、「話し手」と「聞き手」のギャップです)。
例えば、同じガムのCMでも、仮に「スッキリ感満載」「業界1位の口臭予防効果」などの「効果」を全面に押し出されると、私たちは「効果はあるんだろうけど、他社製品と本当に違うの?」という気持ちになるのではないでしょうか?「宣伝か」と身構えてしまうのではないでしょうか?
でも、SarahとJuanのようなストーリーを見てしまうと、たとえガム自体の効能がわからないとしても、「これがいい!」と、売り場でExtraのガムを手に取ってしまう人が多くなるのです。
相鉄の場合は、もし同じ路線を走る電車があるとしたら、やはり「あの電車に乗ったら、(CMの)疑似体験、あるいは自分の過去の経験と重ね合わせることができそう。」と思う人が多いのではないでしょうか?90年代に山下達郎の曲と共に一世を風靡したJR東海の「シンデレラ・エクスプレス」のCMも、もう30年以上経つのに記憶に残っている人は(私を含め)多いことでしょう。あれも今思うと「ストーリー」の「鉄板中の鉄板」でしたね。
そんな風に「ストーリー」には、理由はないけれど、「人の心を動かす」効果があります。なぜか、自分から、行動に移してしまうのです(「買わされる(押し付けられる)」のではなく)。
その効果をCMの世界だけに止めておくのは勿体ないですよね?
実際にストーリーの力はCMの世界にとどまらず、政治家、ビジネスリーダーたちのスピーチなど、あらゆるところで利用されています。これからもそれを少しずつ、言語化してご紹介していきます。
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