人と話をする時、何かを伝える時、その内容以前に重要なのが、その相手を尊重する気持ちです。今日、ストーリーテリングの講座仲間とスピーチの練習会をしていた際に、ちょうどそのことが浮かび上がってきたので、それについて書いてみます。
Aさんの話。
Aさんはある大きなイベントに参加した際、参加すること自体に精一杯で、事前の準備が疎かになってしまったそうです。一方で、その中で同じ組織から参加した人の中には、きちんと自分たちの参加の目的を考え、伝えるべきことを事前に練習して用意したり、相手側への手作りのお菓子を作ったり、完璧に準備されていた方もいたそうです。
それを見て、Aさんは自分とのあまりの違いに落胆していました。「私もただ行くだけではなく、彼女たちのようにしっかり準備して臨むべきだったのではないか?」「意識が足りなかったのではないか?」
そう思う気持ちも十分理解できます。私も過去そういうことが多々ありました。その時のAさんのストーリーとしてのワンメッセージは「行動を起こす時は目的を明確にすることが必要(その目的に沿った準備をする)」ということでした。ストーリーとしては、これはこれで(もっとも伝えたい)ワンメッセージが一貫していて、良かったと思います。
でも、これに対して、参加者の一人からは「必ずしも皆が同じ働きをする必要はないのでは?人はそれぞれ役割があるから、AさんはAさんとして、しっかり準備してくれた人に『感謝』をして行動する、という役割でも良いのでは?」という意見が出ました。
確かに、皆が皆同じボリューム感で同じ動きをする必要はないかもしれません。それよりも、準備をしてくれた人の善意をしっかりと受け止め、Aさんが当日別の側面で役目を果たすことで、本人もそこまで引け目を感じずに済んだかもしれません。同時に、その人に感謝の気持ちを表すことで、その人が「自分は誰かの役に立っている」という「自己重要感」を満たすこともできます。このことは私にとっても新たな視点でした。
続いてBさんの話。
Bさんは、70代のお母さまに毎日出勤時にお弁当を作ってもらっているとのこと。Bさんとしては、既に結婚して家も出ているし、むしろ自分の方がお惣菜でも作って届けなければいけないくらいの立場なのに少し気恥ずかしい、そんな思いがあったようです。
でも、ある時開き直って、せっかく自分のために喜んで作ってくれるのなら、自分は精一杯感謝の気持ちを伝えよう、そうマインドを変えたそうです。お母さまとしては、いくつになっても、娘さんにお弁当を作り、ましてやそれを喜んで食べてくれることは嬉しいことなのです。
それからBさんはお弁当箱を実家に持ち帰る時、お礼の言葉とともに、その日の感想を一つずつ言うようにしたとのこと。「今日は〇〇が美味しかったよ」と感想を言うと、お母さまの表情がパッと明るくなるのだそうです。そして、それが続くと「今日はこれも作ったから」と夕食のおかずまで持たせてくれるようになりました。やはりこれも、相手に感謝の気持ちを「言葉にして伝える」ことで、相手(お母さま)の自己重要感を満たしています。
実は上記のAさんへのアドバイスはBさんからのものでした。Bさんがお母さまとのお弁当を通じたやり取りを通して「与えてくれる人に感謝しよう」というマインドを身をもって経験したからこそ出た言葉だったのです。
続いてCさんも、街中の公共のトイレの清掃員の方に、思い切って口に出して「綺麗にして下さり、ありがとうございます」と声を掛けたところ、それまで硬かったその方の表情がパッと明るくなった、という話をされていました。Cさんも「いつも感謝はしているけれど、声を掛けることにはためらいがあった」と言います。でも、思い切って口に出してみると、想像以上の反応、効果があることがわかります。そのことにより、その方の「自己重要感」が満たされた瞬間を見ることができたのです(ちなみに、このストーリーのワンメッセージは「感謝の気持ちは言葉に出して伝えよう」でした)。
こうして複数の人と練習をしたり、話をしていると、思わぬところで話の「共通点」が見つかり、事例を抽象化することができ、学びが深くなります。
その後は「自己重要感」をキーワードに講座で習った「相手の良いところをを口に出して褒める」というワークを1人ずつやってみました。これは、1人の人に対して、その人の「良いところ、褒めたいところ」を口に出して順番に伝えていくワークです。皆が集中して自分のことを褒める、って普段は慣れていないし、気恥ずかしいものですが、なかなか気分が良いものです(だって、自分で自分のことはなかなか褒められませんからね)。別名「お姫様ゲーム」とも言います(笑)。
なぜ、このワークが必要なのでしょうか?それは相手に「感じたことを伝える」練習のためです。
人が心の底から渇望しているものー具体的には相手のことを言葉に出して「褒める、認める、労う」ことーでその人の自己重要感が満たされます。私たちの講座の先生である山本光子さんは講座でよく「相手の頭の上にお賽銭箱が載っていると思って、こにチャリン、チャリン、とお賽銭(=相手を認める言葉)を入れてあげて下さい。」と説明されています。そして、「お賽銭」は実際に口に出して伝えないと伝えたことにならないのです。
ちなみに、相手を「褒める」といっても、最初は「髪型変えた?」「今日は青い服だね」、これだけでも十分です。たとえ気の利いた褒め言葉が言えなくても、これだけで「あ、私のことを見てくれている、気にかけてくれている」と気づいてもらうことができます。
日本人は特に、直接口に出して相手を褒めることは得意としません。でも、それができると相手の自己重要感がグッと上がり、人間関係が好転していきます。あなたも今日から、相手の「頭の上のお賽銭箱」に意識を向けてみませんか?
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