ストーリーテリングについて語るブログ

「心の中」を言語化するということ(その②)~「内なる言葉」と向き合う

前回のブログで、「『心の中』を言語化する」ことについて書きました。コピーライターの梅田悟司さんの『「言葉にできる」は武器になる。』によると、自分も含め、多くの人は実際に発する言葉(「外に向かう言葉」)しか意識しておらず、自分の心の中で考えたこと、感じたこと(「内なる言葉」)を外に表現できていないようです。

「自分の心の中」を表現せずして、目の前の言葉をこね回そうとすると、そこには感情が伴わないかから「整理されていない」、「軽い」、「薄っぺらい」ものとして伝わってしまいます。今日はその「自分の心の中」で感じたことを一旦全部書き出してみる、ということの重要さ、その効果について書きます。

物事の伝わり方にはレベルがあり、本書によると、以下の4段階に分かれるそうです。

①不理解・誤解:そもそも話が伝わっていない、もしくは内容が誤って伝わっている状態。
②理解:伝えた内容が、過不足なく伝わっている状態。相手が話したことをヌケモレなく正しく把握している。しかし、理解以上の解釈が行われているわけではなく、「頭では分かっているが、心がついていかない」といった状況にも陥りやすい。
③納得:相手が話したことを、頭で理解しただけでなく、内容が腹に落ちている状態。そのため、理解に比べ、自分ゴトとしてとらえることができている。
④共感・共鳴:見聞きした内容を理解した上で、心が動かされ、自らの解釈が加わっている状態。相手の意見や感情などに「その通りだ」と感じ、自分なりの考えを加えたり、自分にもできることがないかと協力を申し出るといった行動を起こしたくなる。

梅田悟司『「言葉にできる」は武器になる。』

実際自分が人にものを伝える時、大体どのレベルで伝えているのでしょうか?
私自身は②ときどき①、良い時③いう感じです・・・。

恐ろしいのはこの「伝わり方」は「人間性の評価にも繋がる」、という点です。人間誰しも「薄っぺらい人間」と思われたくはないはずですが、果たしてどれだけの人が「④共感・共鳴」のレベルまで理解し、伝えることができているでしょうか・・・?

本書では「考えること=(発されることのない)『内なる言葉』を発している」と定義し、これをアウトプットしていくことで「外に向かう言葉(普段発する言葉)」の精度が向上すると書いています。そのためには「内なる言葉」で意見を育て、「考えたつもり」からの脱却をする必要があると述べています。

例えば「悲しいこと」「楽しいこと」が起きた時、「過去」「未来」を考えた時、何を感じているのか?「悲しかった」「楽しかった」思い出の背景にどんな光景、感情があったのか、それを頭の中だけに閉じ込めず、アウトプットするということを勧めています。

具体的な例を考えてみました。
「コーヒーの良い香りがした」という経験をしたとします。その時、心の中で「5年前、〇〇のコーヒーショップで△△さんとコーヒーを飲んだ思い出」や「その時話した話題、感じたこと」などがふっと蘇ることがあるでしょう。それを言葉にするのです。楽しかったこと、悲しかったこと、切なかったことなど。その時着ていた服、お店でかかっていた曲なども思い出して書き出してみます。

そして、その書き出したものを短い言葉で表現していきます。
例えばコピーだったら「一杯のコーヒーは年月を超えて、たくさんの思い出を繋いでくれる。甘さも苦さもあなたとともに」というように。
(完全な自作自演、ベタですみません。でも、イメージとしてはこのような感じかと思います。)

ポイントとなるのは、その時、コーヒーを飲んでいる時に感じた、「あなた自身」の体験がベースとなったアウトプット(この場合はコピー)をするということなのです。なぜ「年月を超える」と言えるのか?、「甘さも苦さも」と言えるのか?ーそれは「あなた自身」が経験したことだからです。人の心に訴える、人の心を動かすには、自分の体験した「体温のある言葉」でないと説得力が伴いません。

本書ではその「内なる言葉」の磨き方について、以下の手順に分けて紹介しています。

1.思考を整理し、考えを深める
2.日本語の「型」を知る(比喩、反復、対句、断定、呼びかけなど)
3.思いをさらけ出す(ターゲッティング、常套句の排除、一文字でも減らす、リズム、動詞にこだわる、新しい文脈を作るなど)

ここで詳しくは書ききれませんが、まずは自分の考え、思いを紙に書き出して、系統立てて整理した上で(1)、日本語の正しい「型」を使い(2)、相手の心に訴える、厳選された文字で表現していく(3)という流れです。とかく文章やコピーを書く上で必要と思われているのは2.や3.のプロセスですが、実は最も大切なのは「1.思考を整理し、考えを深める」ことなのです。

それは自分の心の「引き出し」にない感情を言葉で表現しても、どこか中身を伴わない「上辺の言葉」になってしまうからです。何かを表現する時、「自分の」体験、経験、感情を乗せることができれば、その言葉は体温を持ちます。そして、この「思考を一旦外に出す」アウトプット作業(自分専用の)をすることで、思考と記憶が切り分けられ、考えを進めることに集中できるようになると言います。

1.の具体的な方法として、私が実際にやっているのは赤羽雄二さんが提唱する「A4 メモ書き」ですが、本書では「自分の中にある課題」を設定して、それについてひたすら書き出していく方法が紹介されています。例えば以下のように。

<自分という存在について>
・一番大事にしているものは何か?
・どんな時に充実感を感じやすいか?
・やらなければならないことに追われていないか?
・本当にやりたいことは何か?
・他人には負けない得意なことはあるか?
・今後、どう成長していきたいか?
梅田悟司『「言葉にできる」は武器になる。』

私も実際にこれを「A4メモ書き」でやってみました。「メモ書き」を実際に実践されている方は分かると思いますが、実際に1分間で紙に書き出してみると、「自分はこんなことを考えていたんだ!」という新鮮な発見があります。

自分自身の思考であっても、こうしてアウトプットしてみて、初めて気づくことがたくさんあるのです。そして、日頃発している言葉(「外に向かう言葉」)は自分の思考の「ほんの一部」に過ぎないということがわかります。こんなに頭の中に考えていることがあるのに、「言葉」があるのに、それらが「なかったこと」になっているのは実に勿体ないですね!

皆さんも、「心の中」の声を一度外に出してみませんか?今まで思っていなかった自分の思考の深さに驚くことになるかもしれません。その「思考」を「言葉」に変換していく過程で言葉は「体温」を持ちます。私は今後そんな「体温のある言葉」を紡ぎ出していくことが目標です。

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この記事を書いた人

米・ニューヨーク在住。ストーリーを使った「ストーリートーキングⓇ講座」認定講師。スピーチコミュニティ「伝わる!スピーチ道場」主宰。
こちらのブログでは「ストーリーテリング」、「スピーチ」を中心に、書くことで人の強みを発掘し、話すことで相手の心を掴む話し方、をテーマに書いています。

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