佐藤政樹さんの『人を惹きつける話し方』に登場する「言葉のポジション」。ここでは、身体のどの部分を意識しているかによって、相手への伝わり方がまったく異なる、ということが書かれています(前回は「言葉を発する理由」について書きました)。
佐藤さんによると、意識のスタンスには3つあるそうです。
意識のスタンスが「頭」のとき、言葉をただ「唱えているだけ」に聞こえます。次に「胸」にあるとき、「うわべの言葉」に聞こえます。例えば、過度に緊張しているとき、焦っているときなどにこうなるようです。本書によると、多くの人が、何かを伝えるとき、ついついこの「胸のポジションの言葉」でアプローチしているそうです。「上手く話そう」と思い、テンションを上げて、「感情を込めよう」とします。でも、なぜか聞き手にはそれが届きません。
なぜか?それは「話す理由」が腹落ちしていないからです。いくら情感たっぷりに話しても、話す言葉(発声)が感情(発想)と一致しておらず、言葉だけが発せられているから、うわべだけの、なんだか「自己満足」な話し方になってしまうのだそうです。自分は「やったつもり」になっているけれど、感情、テンション、熱量がともなっていないから、相手に伝わらないのです。よく、「学芸会的」と例えられる素人のお芝居も、ポジションがここにあるということなのかもしれません。
では、意識のスタンスが「腹」にあるときはどうでしょうか?腹に意識が向いているときは、「やると決めたことや覚悟が決まったことを話している」とき、「伝えることがしっかり自分の中で決まっているとき」、「ありのままの自分でいるとき」はきちんと相手に伝わります。
よく理解できていることを「腹落ちする」と言いますが、まさに、意識が「腹のポジションにある」ということなんですよね。その他にも「腹を割って話す」「腹を据える」「腹をくくる」など、「腹」を使った慣用句はたくさんありますが、どれも、一歩深いコミュニケーションや行動をする例として、使われています(劇団四季でも「全ての答えは腹にあり」と言われているそうです!)。
これはお芝居だけでなく、日常生活、ビジネス、すべてに共通します。例えば商談をしていても、自分自身が理解していること、納得していること、信じていることでないと、相手には伝わりません。ましてや、商品やサービスを売る場合はそうですよね。話し手が分かっていないこと、信じていないものを買いたい、とは思わないはずです。
先日Broadwayで大人気のミュージカル『バック・トゥ・ザ・フュ-チャー』を鑑賞しました。その時に感じたことは、俳優さんは「思いを言葉にちゃんと乗せて表現している」ということです。思いが、言葉になって乗っているから、観客の私たちにも伝わるのです。当たり前のことかもしれませんが、それができているから、プロの作品は感動するのだと思いました。
今日は観劇していて、今まで気づかなかったことを感じていました。佐藤さんがClubhouseで紹介されていたのですが、ミュージカルでは「思い」が言葉になって、その気持ちが昂ると歌になり、それが最大限に高まるとダンスになるのだそうです。そんな風に見ていると、ミュージカルって感情と言葉、動きが綺麗に連動している芸術の極みですね。
一方、日常生活でそれが「ちゃんと」できている人は案外少ないような気がします。普段、「発想」と「発生」が一致して、どれだけ「腹落ち」して物を伝えられているか?今「一生懸命話しているのに伝わらない」「つまらないと思われてしまう」というあなた、原因は「お腹」にあるのではないでしょうか?
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