以下は先日のストーリーテリングの講師講座で披露したお話なのですが、言語化してみることにしました。
20年前、私は最初の海外駐在でパリに赴任しました。当時、私はとても緊張していました。今でこそ、女性駐在員はあちこちに出ているのですが、その時は過去にヨーロッパに駐在した女性はおらず、私が初めてでした。
前任者は先輩の男性、仕事もフランス語も何もかも完璧に見えて、行く当所は「私が行って迷惑ではないかな?」「戦力ダウンと思われないか?」という不安でいっぱいでした。後から考えてみると、数年間駐在して帰国する人と、初めて海外で仕事をする人、同じ戦力である必要もないのですが、当時はそんなことを考える余裕もありませんでした。
実際に赴任してみると、その心配は杞憂に終わりました。だって、私は初心者だったし、完璧な先輩と同じようにすることを求められているわけではない、ということがわかったからです。もちろん、当時一緒に仕事をしていた先輩(今の夫です)は私の頼りなさが不安だっただろうし、歯がゆい思いもしただろうけれど、私は私なりにベストを尽くそう、としていました。新しい仕事を覚えるのも楽しかったですし、初めての海外での仕事は全てが新鮮でした。
数年経ち、今度は私が後輩を迎える番になりました。数年の滞在で少しは慣れていたつもりでしたが、考えてみると、やはりその時も「女性の先輩だから」と思われないようにしよう、頑張ろう、と肩ひじを張っていたように思います。私もその後少しだけ成長し、それなりにうまく仕事が回せるようになっていたつもりでした。でも、ある時、ふとした時に、あるところで「やはり駐在員は男がいいよな」というようなコメントを聞いてしまったのです。その時、ガックリ来たことを覚えています。
今思うと、それを言った人は大きな意味なく言ったのかもしれません。でも、当時、それを聞いて、なんだか心が折れてしまったのです。勝手に私の心が折れた、という方が正しいかもしれません。自分の限界を感じた、というのかな。頑張ってきたつもりだったけれど、まだまだ未熟だった、私ではダメだった、という気持ちになってしまったのです。
もうその頃、私は帰国することが決まっていたのですが、いつか、次に来るときは、もっと一回りも二回りも大人になって帰って来たい、そんな思いでいたことを覚えています。そんなこともあってか、最初の駐在の思い出は少しほろ苦いのです。
それから出産や子育て、夫の海外赴任などもあり、次に海外駐在に出たのは前回の帰国から17年後のことでした。年齢的には十分すぎるくらい「大人」になっていたし、母親にもなっていました。そして、今回は夫が帯同休職して来てくれることになっていたので、一家の「大国柱」としての立場もありました。
久しぶりの駐在は懐かしく嬉しかった半面、家庭を背負うという責任感や、仕事のプレッシャーもそれなりにあり、最初の1年はなかなか気が休まらなかったです。そして少しずつ慣れていった次の1年はあっという間に過ぎていきました。今3年目に入っています。
ときどき考えます。「私はあの時より大人になったのかな?頼りになる先輩になれているのかな?」と。でも、今回、夏休みに久しぶりにパリに行く機会があり、当時一緒に仕事をしていたスタッフたちと再会しました。また当時の後輩も二度目の駐在をしており、再会することができました。
その時に感じたのです。「私は以前の自分のままではない」と。「いつまでも半人前、男性にはかなわない」、と思っているのは自分の思い込みで、今の自分は17年前の自分ではないし、人はそれぞれ成長しているはずだと。
そう考えると、これまで私が引きずってきた気持ちは、過去の「残像」だったのかなぁ、と思います。もちろん、今でも自分の技量不足に悩むことはあるけれど、それでも着実に17年前、10年前、5年前より進歩している自分がいるはず。私たちは日々成長し、その足跡を残しています。過去に起こしてきた色々な失敗、至らなかった経験、これが私たちの糧となり、成長し続けているのです。
これを読んで下さっている皆さんも、もしかしたら私のように、過去、至らなかった時代の苦い経験をお持ちかもしれません。でも、その時と「今のあなた」は違います。思い出を持ち続けることは大切ですが、いつまでも引きずる必要もないし、私たちは確実に成長しているのです!そんなことをシェアしたくて、今日はこれを書いてみました。
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