ストーリーテリングについて語るブログ

人の心が動くのはどんな時?ー「What」より「Why」を

前回は「印象に残るストーリー」についてお話ししました。「結論」と同じくらい、話し手の「経験」が必要ということをお伝えしましたが、もう一つ大切なのが、話し手の「理念」を最初に伝えることです。言い換えると「なぜ、それを伝えたいか?(売りたいか?)」ということです。決して「何を伝えたいか?(売りたいか?)」ではないことに注意してください。

サイモン・シネック氏は2009年のTED TALKでそのことについて説明しています。シネック氏は これまで歴史上、偉大なリーダーたちであるマーティン・ルーサーキング牧師、ライト兄弟、スティーブ・ジョブズなどの「伝え方」について研究した結果、「ある共通パターン」があることに気づきました。そして、それはその他の人たちとは順番が異なるということも。さらに、それには科学的な裏付けもあったのです。

「What」より「Why」

世の中の多くの組織、個人は自分たちが「何を(What)」しているか?、はわかっています。そして、「どのように(How)」それを提供するのか、売るのか?、についても理解しています。ところが、多くの人は「なぜ(Why)」それをやっているのか?、を認識している人は少ないといいます。自分(たち)は「何のために」、「どういう理念で」それやっているのか、その商品を作り出したのか、自分たちの(組織の)存在理由は何か?という点についてです。

でも、その「なぜ(Why)」を第一に考え、そこから起点しているのが、上述の優れたリーダーたちなのです。

では、彼らは一体、どんなスピーチをしているのでしょう?
例えばAppleの故スティーブ・ジョブズ氏。ジョブズ氏がAppleのコンピュータやiPodを発表した当時、同様のコンピュータやMP3プレイヤーを作ったのは同社だけではありませんでした。でも、人々が圧倒的に支持したのはAppleの製品だったのです。その秘密はジョブズ氏の理念にありました。「世界を変えたい」という理念です。

ジョブズ氏はいつも、新製品のプレゼンテーションで、最初に製品を紹介することはしませんでした。「我々のすることは全て、世界を変えるという信念で行っています(Why)」で始まり、そのために、「私たちが世界を変える手段は、美しくデザインされ、簡単に使えて親しみやすい製品です(How)」ということを伝えます。そして、最後に初めて「こうして素晴らしいコンピュータが完成しました(What)」と商品を見せます。

これに対して、多くの企業は、先に商品(サービス)を紹介します。そして、その後に制作の経緯や理念を説明します。恐らく、私たちの多くが、当たり前のようにそうしてきたのではないでしょうか?私自身もずっとそう信じ、この順序を疑うことはありませんでした。

でも、人は「What(何を)」ではなく 「Why(なぜ)」に心を動かされるのだそうです。その結果として、人々は先に述べたプレゼンを見聞きすると、(その他大勢ではなく)Apple社の製品を買ってしまうのです。 なぜなら、人は「自分の信じることを、信じている」企業の製品を買いたい、サービスを受けたい、と思うからです。

シネック氏はこれを「ゴールデン・サークル理論」として説明しています。「Why」を円の中心に置き、内側から外側に向かって「Why→How→Whatの順番で物事を伝える」ことで、聞き手の直感的な共感を生み出しやすくなるのです(タイトル部分の図参照)。

「Why」で人は動く

では、なぜ「Why」から始めると、直感的な共感を生み出しやすいのでしょうか?
ヒトの脳は「大脳新皮質・大脳辺縁系・脳幹」で構成されています。外から内へのコミュニケーション(「何を(What)」)を行っている時は「大脳新皮質」が大量の複雑な情報(機能、メリット、数値など)を理解するという分析的な思考を行っています。

一方、中から外へのコミュニケーション(「なぜ(Why)」)を行っている時、内側にある「大脳辺縁系」が、感情・意欲・記憶を発動し、それが行動に直結するそうです。つまり、意思決定するのは「中から外へ」のコミュニケーションなのです。よく言われる「言いたいことは分かるけど、どうも腹落ちしない」という状況は、脳の外側で、数字など、情報は理解しているけれど、心が納得(共感)していない、という状況なのだそうです。

このように、生物学的にも、われわれが「何を(What)」ではなく、「なぜ(Why)」の方により惹かれるのかが証明されています。シネック氏は「 個人であれ組織であれ、我々が共感するのは、『そうしなければならない』からではなく 『そうしたい』からです。『なぜ(Why)』から始める人が 周りの人を動かし、さらに周りを動かす人を見出せる力を持つのです」と語っています。彼らは「外から内(Outside in)」ではなく、「中から外(Inside out)」へ、自分たちの理念を発信しています。そして、そうすることで聞き手の「心を動かす」ことに成功しています。

これらのことから、スピーチをしたり、文章を書くときは「Why」から始めると、より聞き手(読み手)の感情に働きかけることができます。これは、商品やサービスを売る時だけでなく、人間関係でも同じだと思います。例えば後輩や部下に仕事をお願いする時、「〇〇をやって下さい」から始めるよりも、「なぜ、これが必要なのか、なぜ、あなたに頼みたいのか?」という点を説明してから依頼する方が納得感がありますよね。きっと親子関係でも、夫婦関係でも同じことでしょう。

私が現在「ストーリーテリング」を学んでいる山本光子さんの講座でも、この「ゴールデンサークル理論」を使って「ストーリー」を話す練習をしています。受講生それぞれの「ストーリー」や「Why(なぜ)」は異なるのですが、この順番で話すか否かで、話の印象が「全く」違います。伝えたい内容によっては、「Why(なぜ)」探しは難しい時もありますが、探しがい、練習しがいのあるチャレンジです。あなたも今日から「Why(なぜ)」を意識して「ストーリー」を作ってみませんか?

 

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この記事を書いた人

米・ニューヨーク在住。ストーリーを使った「ストーリートーキングⓇ講座」認定講師。スピーチコミュニティ「伝わる!スピーチ道場」主宰。
こちらのブログでは「ストーリーテリング」、「スピーチ」を中心に、書くことで人の強みを発掘し、話すことで相手の心を掴む話し方、をテーマに書いています。

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