ストーリーテリングについて語るブログ

「印象に残るストーリー」とは?~「ゾウ」の話から

以前も書きましたが、私は現在「ストーリーテリング」について、主に話し方を中心に学んでいます。今日は以前尊敬する方に紹介されたTED TALKの例を参考に紹介します。
この講演は、中で説明されている「ナッジ理論(後述)」と共に、「ストーリーテリングの構成・組み立て方」についても、非常に勉強になりますので、是非一度ご視聴されることをお薦めします。
「心の中のゾウと仲良くなると、人は動く」(竹林正樹)

ナッジ理論とは何か?

竹林さんは「行動経済学」を専門とする経済学者です。専門は「ナッジ理論」で、竹林さんのウェブサイトによると、以下のように紹介されています。

Q ナッジって何ですか?
A ナッジは、選択を禁止することも経済的インセンティブを大きく変えることもせずに、望ましい行動へと「予測可能な形」で変える設計です。

出所:竹林正樹公式サイト

このスピーチの流れとしては、以下の通りです。
ナッジ理論の紹介~失敗した話~そこからの学び(ナッジ理論)~成功した話~結論

まず、導入部で、竹林さんは、自らの津軽弁をネタに、「ナッジ」という言葉を使わずに「人は押し付けられずに、優しく後押しされると行動を起こす」という体験談を話します。

スピーチの流れ

次に、過去の自らの経験(失敗談)を語ります。学生時代のある日、竹林さんは糖尿病の「おばあちゃん」に治療をするよう、説得しました。その拙速な「意見の押し付け」に抵抗したおばあちゃんは、話を聞き入れてくれませんでした。それにイライラした竹林さんは、「捨て台詞」を吐いてその場を後にします。その結果、おばあちゃんは心を閉ざしてしまい、当然治療も受けてはくれず、手遅れになってしまった、という経験でした。

その「苦い経験」を受けて、竹林さんは「では、どうしたらおばあちゃんに聞き入れてもらえたのか?」について研究します。その結果、たどり着いたのが「ナッジ理論」でした。竹林さんはその人の中にいる「ある動物(ゾウ)」に例えて、以下のように説明します。

人に意見を押し付けず、優しく行動を後押しするには?
①「(相手の)ゾウ」が疲れていないときに話す。
②「(相手の)ゾウ」の選択肢を奪わない(意見を押し付けない)。
③ 最初と最後をポジティブに結ぶ。

時は変わり、今度はお父さんが糖尿病になっていることがわかります。上述の通り、「『ゾウ』とうまく付き合う」ことを覚えた竹林さんは、今度こそ、自分の意見を押し付けずに、そっとお父さんの「ゾウ」を後押しすることを誓います。

まず、お父さんの「ゾウ」が最も疲れていないであろう「朝食直後」の時間、にこやかにお父さんの好きな、旅行の話について話を振ります。お父さんは嬉しそうに最近の思い出を語ります。そして、良いムードを作った後で「来年もそうやって、楽しく友達と旅行を続けるためには、専門の病院の先生に診てもらった方がいいね」と助言します。
(注:これらの一連の会話のやり取りは「津軽弁」で字幕付き、で表示)

この(病院の先生の話が出た)時、一瞬お父さんの表情が強張りました。でも、竹林さんは以前のように畳みかけて結論を急ぐことはせず、理性を働かせ(自分の中の「ゾウ」をコントロールして)、にっこりと「話を聞いてくれてありがとう」と話を結びます。

その結果、どうなったでしょうか?
お父さんは専門の先生のところに自ら通っているそうです。この時、竹林さんはおばあちゃんの時のように、意見を押し付けたり、強制したり、ましてや「捨て台詞」を吐くようなことはせず、「お父さん自らが自発的に動くように」行動を促しています。

ここでポイントとなるのは、自分とお父さんの中にいる「ゾウ」を想像し、そのゾウたちの機嫌を見たり、コントロールしたりしているところです。そうすることで、より「客観的」に事実を見つめ、相手に寄り添うことができます。

竹林さんによると、相手や自分の「ゾウ」に寄り添う姿勢を身に着けると、「人を動かせるようになる」とともに、こんなメリットがあるそうです。

①人に腹が立たなくなる(機嫌が悪い人を見ると、「この人は自分の中の『ゾウ』のコントロールに失敗したんだな」と思える)。
②素直に謝ることができるようになる(自分の「ゾウ」の管理不行き届きが原因だとわかると、素直に「ごめんなさい」と言える)。

ストーリーテリングの構成~「実体験」と「情景描写」がカギ!

竹林さんのスピーチを「ストーリーテリング」として「分解」すると、以下のようになります。

●主張(ワンメッセージ):あなたの中のゾウと仲良くなると人は動く

●経験、学び
・おばあちゃんとの経験(失敗例)
・そこからの学び(「ナッジ理論」を知る)
・お父さんとの経験(成功例)

●主張・結論:あなたのやさしさを大切な人のゾウを喜ばせることに使おう

この通り、最初と最後を「主張、結論」ではさみ、真ん中に「経験談、そこからの学び」を入れて話します。この時「失敗談~そこからの学び~成功した話」と具体的に光景が目に浮かぶように語られています。

どのようなスピーチでも、「結論」は必須ですが、「ストーリーテリング」では、特にそれ裏付けるための「実体験」がカギになります。今回の竹林さんのスピーチでは、「ナッジ理論」という行動経済学上の理論を説明するため、「こうして失敗した」、「こうして成功した」というビフォー・アフターの具体例、そして鮮明な情景の描写(前半はおばあちゃんの家、後半は実家の食卓)があることで、聞き手がそれを容易にイメージすることに成功しています。

そして、さらに竹林さんの場合は場を和ませる「津軽弁のリアルな会話」を織り交ぜることにより、スピーチをよりビビッドなものにすることに成功しています。方言も使い方により、スピーチを印象付けることに、一役も二役も買う、という好例です。もしくは、方言でなく、普通の会話だけでもそこを抜き出すことで、より情景を印象付けることはできるでしょう。

あなたのスピーチをより印象付けたいとき、このような「実体験」や「情景描写(その場の光景や会話など)」に気を付けてみて下さい。特に、体験は、「サクセスストーリー」だけ聞いても人は「へー、そうなんだ。」で終わってしまいます。それよりも、「失敗した経験」、「苦しんだ経験」を話し、「そこから何を学び、どうやって今の状況に至るか?」というストーリーを語ることで、人の心が動きます。今後、この「人の心が動く」ということについても、書いてみたいと思います。

「ストーリーテリング」について、私が現在学んでいる山本光子さんがこんな体験セミナーを開催されています。「百聞は一見にしかず」ですので、良かったら実際に体験してみてください。私のように、「ストーリーを知る前」と「知った後」で、あなたの見える世界が変わっているかもしれません。そのくらい「ストーリーの力」は絶大です!

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この記事を書いた人

米・ニューヨーク在住。ストーリーを使った「ストーリートーキングⓇ講座」認定講師。スピーチコミュニティ「伝わる!スピーチ道場」主宰。
こちらのブログでは「ストーリーテリング」、「スピーチ」を中心に、書くことで人の強みを発掘し、話すことで相手の心を掴む話し方、をテーマに書いています。

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