ストーリーテリングについて語るブログ

「エイト&ボブ」に学ぶストーリーの魔法

皆さんは「エイト&ボブのストーリー」を聞いたことがあるでしょうか?

1930年代の南フランス・コートダジュール。アルベール・フーケは香水作りの天才で、当時彼が自分のために作ったの秘密の香水は地元で話題でした。ある日、当時まだ米国の大統領でなかったジョン・F・ケネディ(JFK)と出会い、彼もその香水に魅了されました。「これは何の香水?」とケネディ。フーケは「私の秘密の香水ですよ」と答え、ケネディはその場でその香りの虜に。その「秘密の香水」はレシピも秘密でもちろん一般に公開されることはありませんでした。

帰国後もその香りが忘れられなかったケネディは「8つの香水を私に、そしてもう一つを弟のボブに」と香水を送ってもらうことを依頼する手紙を出します。その手紙がブランド名「エイト&ボブ(Eignt & Bob)」の由来です。

当時この香水は手作りで大量生産が不可能なものでしたので、ケネディに送られた9本は貴重品でした。その後、1939年の自動車事故でフーケは帰らぬ人となってしまったのですが、すぐ第二次世界大戦が本格化し、彼の邸宅がナチスに接収されることになりました。その際、本をくり抜いてそこに香水とレシピを隠すという、執事のフィリップの機転によって、この貴重な香水たちは戦火を免れることとなったそうです。

そして、その後数十年の歳月を経て、フィリップが残した数々のレシピが彼の子孫によって発見され、3年以上の月日をかけてそれらの香りが復元・再生産されることとなりました(今でも原料の希少性ゆえ、数量限定で販売されています)。

このように、「エイト&ボブ」はただの香水でなく、フーケとケネディの出会いや、戦争中の偶然と運命が交錯した美しいストーリーとして、多くの人々に愛されています。

私がこのストーリーを知ったのは『心に刺さる「物語」の力 ──ストーリーテリングでビジネスを変える(キンドラ・ホール著)』で取り上げられていたからですが、ここでは主人公の夫が、偶然立ち寄った旅先のスロベニアのブティックで、香水など普段つけないのに、店員の語るこの香水にまつわるストーリーを耳にして、この「エイト&ボブ」のストーリーに魅了されてしまったことが紹介されています。彼はこの香水の香りすら嗅いだことがないのに、話を聞いただけでその香水が気になって仕方なくなりました。その日は在庫がないとことで、売ってもらえなかったのですが、彼はこの香水のことが忘れられず、翌日再び買いに行ったそうです。

ところが、翌日訪れた同じブティックに現れた店員は前日とは別の人でした。そこで受けた同じ香水の説明は次のようなものでした。

「あちらの製品ラインには香りが5種類あります。それから…フランスの希少な植物を使っています。とても人気が高い商品のようです。パッケージも素敵ですね…。」

まるで前の日は「魔法使いの接客するブティック」だったのが、一晩でコンビニエンスストアに変わってしまったかのような、そんな印象を受けたということが書かれていました。(結局この香水は在庫もなく、買うことができなかったそうです。)

このエピソードでわかること。
それは、「商品のストーリー」の有無で相手(顧客)が受ける印象、購入したいと思う意欲が全く変わってしまうということなのです。主人公の夫は香水に全く興味のない人でした。その人が香りも嗅いでいない「エイト&ボブ」の香水を「欲しい、買いたい」と思わせる魔法のような力、がストーリーにはあります。
(残念ながらその「魔法」は一晩で店員が交代したことにより、解けてしまいましたが)

もしあなたが商品やサービスを扱っていて、それを一人でも多くの人に手にしてもらいたいのなら、「ストーリー」の力に頼らない手はないでしょう。香水でいうならば、「翌日」の店員のように、ただ商品の種類や原料について説明するのか、「魔法使い」の店員のように製品の誕生の背景のストーリーも含めて説明するのか、どちらが効果的で、人の心が動くか、答えは明白です。

「ストーリー」には人が抗えないパワーがあります。それを語るには、それに関わる人のエピソードが不可欠です。誰もが「エイト&ボブ」のようなドラマチックなストーリーではないかもしれませんが、あなたには、あなただけの「唯一無二のストーリー」がきっと、あるはずです。あなたも「ストーリー」を語って、人の心を動かしていきませんか?これから、少しずつ、その具体的な作り方についてもご紹介していきますね。

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この記事を書いた人

米・ニューヨーク在住。ストーリーを使った「ストーリートーキングⓇ講座」認定講師。スピーチコミュニティ「伝わる!スピーチ道場」主宰。
こちらのブログでは「ストーリーテリング」、「スピーチ」を中心に、書くことで人の強みを発掘し、話すことで相手の心を掴む話し方、をテーマに書いています。

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