『パン屋ではおにぎりを売れ』『バナナの魅力を100文字で伝えてください』を読んで①~仕事、人間関係のバイブル 続き。
「伝える」≠「伝わる」
2冊目『バナナの魅力を100文字で伝えてください』は「伝える」技術について書かれた本。本書によると「伝える」ことと「伝わる」ことはイコールではない。一般に「相手が理解できるように伝える」ことができている人は少ない。これは「脳のバイアス」は100人いれば100通りあり、「自分の脳が見ている世界」と「相手の脳が見ている世界」が違うということを理解することが大切だという。本書では様々な方法で「伝える技術」について、誰にでもわかりやすい方法で伝授してくれている。
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伝わる技術は7階建て構造~「うまい落語は景色が見える」
柿内さんの考える伝わる構造は「7階建てのビル」のような構造だという。まず「何のために」という「①ゴール設定」をし、相手の「②納得感(理解する、」腑に落ちる)」を得た上で、「③相手ベース」で考え、伝える。そして、相手の頭の中で状況を「④見える化」し、相手の話をよく聞いて(「⑤聞く力」)、相手にとって「自分たちの伝えたいことのどこに必要性があるのか」を見つけ出す。
「うまい落語は景色が見える」という言葉もあるように「話がわかりやすい」と言われている人は、「見える化の達人」だという。また、優秀な営業マンは「自分たちの商品を売る」のではなく、「相手に必要な商品を紹介する(相手にとって自分たちの商品のどこに必要性があるのかを見つけ出す)」というマインドなのだそうだ。次に「自分がどう話すか、伝えるか」より、まず相手の話を聞いて距離を縮め、「⑥親近感」を生むことが大切だという。そして最後に「⑦信頼感」を生むための伝え方として、誠実さ、素直さ、スキル・能力、接触頻度などの要素が入っているか確認する。
「フリオチの法則」~「振れ幅の大きさ」が人の心を動かす
ここからは具体的な「伝わる技術」の話の中で印象に残ったものをいくつか。「フリとオチ」はお笑いの世界で良く聞く言葉だが、フリは相手に「この先はきっとこうなるんじゃないか」というイメージをさせること、オチは「そのイメージを裏切るような意外性や驚きのある結末を用意すること」である。ただし、「伝え方」における「フリとオチの法則」は「振れ幅を大きくして、より価値を見える化する」ための手法だという。
人は話の「振れ幅」が大きい方が心が動きやすい。例えば、以下の話の
どちらに人はより関心を抱くだろうか?
・「うちの息子が東大に合格しました!」
・「うちの息子が高2が終わるまでは偏差値35でした。でも、そこから頑張って塾にも行かないで現役で東大に合格しました!」
恐らく後者であろう。この話の「フリ」と「オチ」は以下の通り。
この「フリオチ」の法則を使った例がテレビ番組「大改造!!劇的ビフォ→アフター」であり、「ビリギャル(学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話)」である。「フリ」と「オチ」の間に意外性、驚き、新奇性、憧れがあると、人の関心や興味が生まれる。つまり、話を面白くするには、絶対値、振り幅が大きくすることがポイントとなる。ちなみに、この「フリオチの法則」を応用して、「フリがある誘い方」をすると、デートを誘う時に成功する確率が高まるらしい(具体的な使い方は本書にて)!
「ファクト」と「メンタル」
物を伝える時、「伝える」対象は「ファクト(事象、事実)」と「メンタル(感情)」の2つに分かれることは見落とされやすいという。
例えば、上司が部下に「なぜいつも遅刻するんだ。だからお前はダメなんだ!」と叱責した場合、「なぜいつも遅刻するんだ」は「ファクト」、「だからダメなんだ!」は「メンタル」である。このようにファクトとメンタルを一緒に伝えてしまった場合、本来上司が一番に伝えたいこと(ファクト)に対して、部下はメンタルの言葉でひっかかる、というミスマッチが起きてしまう。そのため、物事を伝える時は「ファクトを伝える」と「メンタルを伝える」は分けて考えた方が良い。
一方、「ファクト」と「メンタル」の両方をかけあわせることで、「伝わる力」を上げることもできる(ファクトとメンタルの法則)。例えば牛丼屋の有名なキャッチフレーズ「うまい、やすい、はやい」は「やすい、はやい」というファクトに加え、「うまい」というメンタルをかけあわせることで、よりキャッチーなものになっている。同様に某ロングセラースナックのキャッチフレーズ「やめられない、とまらない」も「とまらない」というファクトと「やめられない」というメンタルを両面から伝えた名コピーである。
「ファクトとメンタルの法則」は日常会話や文章にも活用できる。例えば、部活の試合を頑張った子供に対し、「最後まであきらめないで相手に立ち向かっていったね(ファクト)。感動したよ!(メンタル)」というように。
「相手メリット」で人を動かす!
相手にを誘ったり、何かを依頼する時は「自分にとってのメリット」を強調するだけでは人を動かすモチベーションになりにくい(例:デートに誘う場合など)。そんな時は「相手にとってのメリット」を考えると良いという。例えば相手が外食好きな人であれば、レストランの話をした後に、お薦めのレストランを聞き、一緒に行ってもらえないか誘う、など。その時に相手のことを考えるだけでなく、もう一歩踏み込んで相手が「得した!」「良かった!」「うれしい!」と思ってもらえるよう伝えていくことが「相手メリット」だという。
ちなみにこの「相手メリット」は仕事を断る時にも使うことができる。相手にとって優先度の高いことを、相手にメリットがあるように、もしくは相手のデメリットにならないように、伝えるのがポイントだ。たとえば先輩から頼まれた仕事を断る場合、「今進めているAプロジェクトの成果を出すために注力しているため、いますぐは難しいけれど、それが終われば大丈夫です。」というような具合だ。Aプロジェクトは先輩も成功させたい仕事であり、こう伝えられると先輩は納得感を持って受け入れることができる。
(ただし、「言い訳」と混同しないこと。)
これに対し、「今忙しいので無理です」など、自分の頭に浮かんだ言葉をそのまま伝えてしまうと、どのような結果になるのかは察しがつくだろう・・・。
「文脈」の効果~「伝わる文脈」を作る!
何かを伝える時、そのことを伝える「目的(ゴール)」を伝えることが基本である。そのことすらできていないことも多いが、そこにさらに「文脈」を加え伝えることで、説得力が各段に増す。本書では分かりやすい例として、子供が道路で車に気を付けるように伝えたい、という時に以下のように伝えている。
この会話の文脈は以下の構成になっている。
①「車にひかれるのは嫌だよね?」という目的。
②「最近この近くで交通事故が発生した」「横断歩道を渡っているときに、車の運転手さんがよそ見をしていてあなたに気づかないこともある」という前文脈。
③「もしあなたが車にひかれたら(お母さんは)悲しい。だから道路をよく見て渡るよう、約束して欲しい」という、目的を補強する後文脈。
このように、話の文脈を踏まえて伝えることで、受け取る側(子供)はお母さんの思いを理解した上で、注意喚起をされたと受け取ることができる。このように話を伝える上で「文脈」の持つ影響力はとても大きい。
「あきらめる」からのスタート
本書では「あきらめる」という言葉を2つの漢字で表している。
諦めるー投げ出す、執着しない。
明らめるー物事を明らかにする。ここで言いたいのは「自分の考え、思考」が相手も同じである、という考えを潔く「諦め」、「なぜ伝わらないのか」という理由を「明らかに」することが大切だということである。逆に言うと「伝わる人」は相手ベースで物事を見ることができていて、「相手を思いやるやさしさ」があると言える。この相手目線の見方は仕事、人間関係全てに応用できる技術である。
仕事、人間関係のバイブル
私がこの2冊を読んだきっかけは音声型SNS、Clubhouse「耳で読むビジネス書(耳ビジ★)」で柿内さんの『バナナの魅力を100文字で伝えてください』が紹介されたことから。この放送をきっかけに、私自身、読んだ本のポイントを100文字でまとめる「100文字ブックレビュー」を始めた。
ただし、放送から早や数ヵ月前が経ったが、正直一度読んだだけでスッと理解できたわけではなく、実際にこうして言語化するまでも時間がかかった。でも、何度か繰り返し本書を読む中で、もっと中身を仕事やプライベートに役立てたい、という思いが出てきた。私の場合、本書により実際に仕事やプライベートでやるべきことのアイディア出し、考え方の選択肢が広がることで、今まで自分の思考がノウハウもなく、ただ俗人的に「何となく」考えていた、独善的に伝えていた、ということがわかった。こうした「考え方」「伝え方」の法則をそれぞれ学ぶことで、公私共に人間関係に影響するメリットは計り知れない。常に手元に置き、辞書的に使いたい本である。
上記で紹介した手法は2冊のほんの一部のため、ご興味があった方は是非手に取って、明日からの仕事、人間関係に役立てていただきたい。
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