西剛志さんの「80歳でも脳が老化しない人がやっていること」を読んで。
人は誰でも歳を取る。年を取ると周りが気にならなくなる、同じ主張を繰り返す、感情的になる人が多くなる。年齢とともにそういう行動を知らず知らずに取ってしまうことを筆者は「老人脳」と呼ぶ。一方で、80代や90代になってもどんどん新しいことに挑戦し、元気に前向きに若々しく生きている人たち(「スーパーエイジャー」)もいる。ではどうしたら、彼らのように脳をいつまでも若々しく保てるだろうか?本書はその習慣と行動について、様々な方法で解説・紹介している。
脳のピーク年齢は?
脳は通常、30代から少しずつ萎縮が始まり、その後少しずつ萎縮が進み、老化していく。その結果年齢とともに、物忘れが多くなる、新しいことが面倒になる、集中力が続かなくなる、耳が聞こえなくなる、などの「老人脳」の症状が出てくる。
本書によると、脳の各能力の年齢にはピークがあり、たとえば「情報処理能力」のピークは18歳、「人の名前を覚える力」のピークは22歳。一方、「相手の気持ちを読む力」のピークは48歳、「語彙力」のピークは67歳となっている。年を取るにつれ人の名前がなかなか覚えられない、というのはよく聞く話で納得だが、「語彙力」は年齢とともに蓄積されていくものであり、ピークの年齢が他の能力に比べて突出して高い。この結果を見ると、一般的に「先生」と呼ばれる職業や作家に比較的高齢な人が多いことも納得がいく。
また、本書には「世界を驚かせたある事実」として「脳の神経細胞は70歳を超えても新しく生まれる」ということが書かれている。加齢で脳が委縮したとしても、脳の機能(認知機能)が全く衰えない人たちはこの神経新生が起きているため、いつまでも若い脳を保つことができているのだという。
老人脳と「ガンコ」を生み出す3つの要素
脳には老化が起きやすい部位、というものがあり、本書ではその部位をベースに「老人脳」のタイプとして、5つに分類されている(どれに該当するかは本書の「老人脳自己診断チェックリスト」を参照)。
また、年齢とともにガンコな「老人脳」になる人とそうならない人がいる。本書ではそうなる原因としての脳のバイアス(偏った考え方)とマインドセット(その人がそれまでの人生の中で構築してきた固定化された考え方)について紹介している。
ガンコを生み出しているのは以下の3つの要素だという。
これらの思考は総じて「過去の自分の考えにとらわれている」ことが原因で、それが「ガンコ」を硬直させているという。対策としては「新しい体験の数を増やすこと」、「ドーパミンを増やすこと」の2つが良いという。新しい経験をした人ほど、考えや視点が増えて柔軟性が増すし、ドーパミンを増やすことで意欲が高まり、相手を理解しようとする気持ちが高まるからだ。では、どうやって「新しい体験を増やし」たり、ドーパミンが増やせるのか?
人とのつながり
人は元来、一人で生きるより、周囲の人たちとつながりを感じて生きているほうが幸福度が高くなるようにできているという。夫婦であっても、友達であっても、仲の良い人が一人いるだけで、認知機能も幸福度も上がる。脳内ではつながりを感じた瞬間にオキシトシンの作用で脳を活性化し、認知機能が高まる。
「夫婦仲がいい」だけで脳が元気になるという。夫婦仲を良くする具体的な秘訣として、筆者は「1 夫婦で新しいことに一緒に挑戦する」「2 記念日をきちんと祝う」の2つを勧めている。その理由として、たとえば、ボートを一緒に漕いだり、映画を一緒に見たり、レストランで食事を共にすることで、「非日常を一緒に体験する」ことになるからだそうだ。
逆に「孤独」でい続けることは脳に悪いとも言えるが、たとえ現在配偶者や親しい友達がいなくても、友達を作る方法がある。友達というと、つい「同世代の同性」から探そうとしてしまうが、世代間を超えた年下の友達を作ることも「アリ」だという。実際に、私の周りでも、いわゆる「若々しい人」は年代を超えた友達(エイジレスギャップフレンドシップ)が多く、対等に交流している印象がある。本書では、そうした友だちづくりの方法についても具体的な方法で提案している。
「新しいこと」の効果
「新しいことにチャレンジするのが好きな人」は若くいられる。それは新しいことにチャレンジする度に、脳の神経ネットワーク(膨大な神経細胞のつながりのこと)が増えるからだ。冒頭で触れた通り、この脳神経ネットワークは加齢とともに減るわけではなく、むしろ経験とともに増えるという。
具体的には、新しいこと、楽しいことを計画するのが良い。「いつもの道を少し変えてみる」、「レストランでいつもと違うメニューを頼んでみる」、「部屋に花を飾ってみる」、などちょっとした変化が「脳にいい暮らし方」になる。また、少し先の旅行の計画を立てることも良いし、読書の習慣も健康寿命が長くなるという。
ちなみに、本書では「新しいことにチャレンジする時のコツ」として、「まず20秒だけやってみる」、ということを勧めている。また趣味を複数持つことも推奨されており、本書で紹介されている「心がフフッと喜ぶ21分野」「人生を楽しませてくれる100のメニュー」も試す価値大だ。その他、犬などペットを飼うことも心身ともに効果があるという。
「生きがい」~「自己重要感」がカギ
脳の機能維持には「生きがい」が大きな役割を果たし、脳はいくつになっても「生きがい」があるだけで大きく変化する。
人の究極の幸せは ① 人に愛されること ② 人に褒められること ③ 人の役に立つこと ④ 人に必要とされること、の4つだという(日本理化学工業 大山泰弘氏「働く幸せの道」より)。
人は誰でも自分のことを重要な存在であると思いたい欲求があり、自分が生きている意味、存在価値が認められるものがあるだけ、認知機能も高くなる。自分は他者や社会にとって重要な存在だと思う「自己重要感」が満たされると、認知症も発症しにくいという。逆にここが満たされないと、いわゆる「キレる老人」を生み出してしまう。キレることで自分に注目してもらい、自己重要感を満たそうとしてしまっているのだ。
認知症やキレる行為を防止するためには、相手の自己重要感を満たすような言葉かけや行動をすると良い。相手が喜ぶことをしたり、困っている人を助けることで相手も自分も満たすことができる。その意味では高齢者が就労したり、ボランティア活動を行うことはこの「自己重要感」の充足に繋がっている。
「80歳でも脳が老化しない人がやっていること」を読んで~スーパーエイジャーになるには?② に続く。
80歳でも脳が老化しない人がやっていること (西 剛志 著)
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