ストーリーテリングについて語るブログ

「ファイブ・ゼロ?」

先日私のオフィスで小さなパーティをしました。全部で50人弱くらいの規模でしたが、予算も限られていたので、色々と手作りでやる必要がありました。お昼なので食事をケータリングして、飲み物を買って、と同僚と色々と準備をしていました。その中で食後のコーヒーをテイクアウトできるところはないかな、と探していたんです。

コーヒーのチェーン店でテイクアウト用のBOXを買うことも考えましたが、人数もそれなりだし、値段も嵩みます。今のニューヨーク、チェーン店で一番は安いスモールサイズのコーヒー1杯が約3.5ドル(1ドル150円だと525円!)します。とはいえ、オフィスで50人分を作るのも大変。そんなに大きなマシーンもないし・・・。

その時思いついたのが、出勤途中でいつも立ち寄る、コーヒースタンドだったのです。そこはグランド・セントラルの駅からオフィスに行く途中にある一番近いコーヒースタンド。ニューヨークには、実にたくさんのコーヒートラック(キッチンカータイプのショップ)があります。それぞれ決まった位置があり、大体朝の通勤時間帯~お昼ごろまで営業して帰っていきます。

コーヒーや紅茶、パンやベーグル、ペストリー類など売っているものはほとんど変わらないけれど、不思議とそれぞれのお店の「味」があります。狭いキッチンカーの中に、そのお店の「世界」がギュッと詰まっているのです。

私がいつも行く、そこのお店は渋いおじさん2人でやっているお店。いつも一人のおじさんが私の顔を見ると、何も聞かずにミディアムサイズのミルク入りコーヒーを作り、もう一人のおじさんに手渡します。価格は1杯1.5ドル。私はいつも2ドル分のお札を渡して、そのコーヒーを受け取るのです。50セント分の「ありがとう」の気持ちです。

さて、この日の朝、私には「いつものコーヒー」を買う以外に、「50人分のコーヒーを届けてくれるか聞く」、という重要な任務がありました。お店は朝の時間帯は忙しく、列が途切れません。だから少し勇気がいりましたが、思い切って、私はこう話しかけました。

「すみません、今度お昼にオフィスでパーティをするんです。コーヒーを50人分届けてもらうことはできますか?私のオフィスはすぐ近くなんだけど・・・。」と。半分は期待していませんでした。

だって、このお店は小さなキッチンカーだし、個人向けのお店。コーヒーのデリバリーみたいなことは対応しているかどうかわらなかったから。テイクアウト用の容器の用意だってないかもしれません。でも、いつも私にコーヒーを作ってくれるおじさんはこう言ったのです。「いくつ必要?え?ファイブ・ゼロ?」。

続いて「いいよ、君が必要なら全部用意するよ、安心して。」と。予算が限られている私の立場を察してくれたのでしょうか。「君は良いお客さんだから、このくらいお安い御用だよ。お金もいいから。」とまで言ってくれたのです。

もちろん、そのままお言葉に甘えるわけにはいかないので、「待って、お金はちゃんと払います。でも・・・50人分で50ドルでもいいですか?」と、かなり安めの金額をお伝えしました。恥ずかしながら、そのくらいの予算しかなかったのです。

スモールサイズのコーヒー1杯の値段からすると、それほどおかしな金額ではないですが、デリバリーの手間を考えると、ほとんどペイしないでしょう。でも、おじさんは「もし君がそうしたかったら」と快くオーケーしてくれたのです。そして、私は連絡先と概要を伝えて、「明日朝また立ち寄りますね。」とお店を後にしました。

そして翌日、おじさんはちゃんと約束の時間にデリバリーしてくれました。両手にたくさんのコーヒーボックスと、牛乳を3本も抱えて!しかも、おじさんは前の日にはなかった、テイクアウト用のBOXをこの日のために調達しておいてくれたのですよね。よくよくAmazonで調べてみると、この箱だけで1個10ドルくらいします。これをわざわざ5つも買って、持ってきてくれたのです。

ミルクも恐らく、1本あれば十分だったのだろうけれど、大きな牛乳を3本も買ってきてくれました。コーヒーもカップもミルクも、お砂糖もマドラーも何もかも、「足りなくならないように」という気持ちがしっかり伝わってくる量でした。

私は「これは50ドルでは割が合わなかっただろうな・・・」と申し訳なく思いましたが、ちゃんと私との約束を果たして、期待以上の結果を見せてくれたおじさんの優しさに気持ちが温かく、ほっこりしました。私の中で「おじさん、ありがとう!」という気持ちが溢れてきました。

コーヒーは半ば予想どおり、少し多すぎるくらいあったのですが、お陰でオフィスの皆さんにも、たくさん飲んでもらうことができました。その時におじさんとのやり取りも伝えているうちに、なんだか自分が誇らしい気持ちになりました。そして、色々な人にこのスタンドを利用してもらい、これからもお店に恩返しがしたいな、と思いました。

今回感じたことは色々あります。1つ目。「小さな『ありがとう』が大きな『嬉しい』に変わることもある」、ということ。日々の50セントが50杯のコーヒーに変身しました(お金こそお支払いしましたが)。

2つ目。「与える人が与えられる」ということ。だって、ここまでしてもらうと、このお店のファンにならざるを得ませんもの!

そして、3つ目。「自分の直感を信じて、勇気を出してみると期待以上のことが待っている。」ということ。私は今回、おじさんに声をかけた自分のことも褒めてあげたい気持ちなのです。こんなに人との繋がりで温かい気持ちになることができたのだから。

実はこれ、いつも語っている「ストーリー」としては欲張り過ぎです。ワンメッセージが3つもあるので。一つずつでも3つの切り口で語ることができてしまいますね。でも、それだけ、私には感じるところが大きいエピソードでした。

以前もブログに書きましたが、ニューヨークは、意外と優しい人が多いのです。顔なじみになると、時にはこんなにも温かく接してもらえることがあります。たまに億劫になることもありますが、だから人とのコミュニケーションはやめられない!のです。

あなたも、もし普段、何気なく人と関わる中でピンとくる人がいたら、思い切って話しかけてみてはいかがでしょうか?私のように、思いもしなかった心温まる経験ができるかもしれません。

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この記事を書いた人

米・ニューヨーク在住。ストーリーを使った「ストーリートーキングⓇ講座」認定講師。スピーチコミュニティ「伝わる!スピーチ道場」主宰。
こちらのブログでは「ストーリーテリング」、「スピーチ」を中心に、書くことで人の強みを発掘し、話すことで相手の心を掴む話し方、をテーマに書いています。

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