ストーリーテリングについて語るブログ

アップデートする脳~『成熟脳』から

『妻のトリセツ』。「夫のトリセツ』で有名な黒川伊保子さんの
年代別、男女別の脳の構造、仕組みがわかりやすく説明されており、「なるほど」ポイントがたくさんありました。

7年ごとに大人になる脳

この本での気づき、はまず人間の身体だけでなく、脳がどういう変化を遂げていくか、脳の成熟過程がわかるという点です。黒川さんによると、人間の脳は「7年ごとに大人になる」のだそうです。そして、もっとざっくりと分けると、「28年間」で一区切り、具体的には、以下のような感じです。

・第一ブロック(誕生~28歳):「入力装置」としての成長期
・第二ブロック(29~56歳):必要な「回路」の優先順位をつける移行期
・第三ブロック(57~84歳):出力性能最大期(「本質」の回路)
・第四ブロック(85~112歳):?(現役のまま90代に突入すると脳の一部が若返る?)

人間の脳は生まれてから12歳くらいまでは「こども脳」型の時期。この「こども脳」は、感性記憶力が最大限に働き、文脈記憶(行動やことばの記憶)に匂いや触感、音などの感性情報が豊かに結び付いている記憶のことです。昔の記憶のひとコマから「匂い」や「味」が鮮明に蘇る(例:夏休みに食べたスイカの匂い、など)のは、この感性記憶の影響です。

その後12~13歳の間に今度は過去の記憶の中から類似記憶を引き出し、その「差分」だけを記憶したり、過去の記憶との関連性を「タグ付け」して記憶していくようになります。そして、大体14歳には「おとな脳」が完成するとのこと。その後28歳までの14年間に単純記憶力を最大限に使います。そして、次の28年間が「回路の優先順位をつけていく」移行期、そして56歳からが「人生の最高潮期=出力性能最大期」となるそうです。

思春期は脳の調整期間

現在13歳の我が娘。いわゆる「思春期」真っ盛りで、とんがって何でも否定するかと思えば、昔のことを思い出して本音をポロリと語ったり、なかなか不安定なお年頃ですが、その理由はこの「過渡期」にありました。

本書によると、「世の中を感じ尽くす『こども脳』」から、「思い込みで世の中を切り出す『おとな脳』」への過渡期、この時期は人生で最も不安定で脆弱なのだそうです。なぜなら、過去の記憶を辿ろうにも、参照すべき過去の記憶がちょっとしかないからなのです。

「思春期」という言葉一括りで考えていましたが、脳も子ども脳からおとな脳への過渡期(=脳の調整期間)ゆえかと思うと、この不安定さも合点がいきます。身体と一緒に、まさに脳も育っている最中であり、親としてはこの「移行期間」をただただ見守るしかないのです。

そして、「14歳」の時の経験が生々しいというか、鮮明に憶えているのはこの時期の脳がまさに「おとな脳」になりたてで、「生まれたての感性」で見たあらゆることを鮮明に脳に刻印しているからだそうです。本書では「自分を見失ったら14歳のときに夢中だったものに触れてみる」ことを勧めています。そう言われると非常に合点がいくのですが、私自身も14歳の時の記憶はかなり鮮明にあるし、今魅力を感じて取り組んでいる「文を書く」ということを意識したのも、振り返ってみればこの頃でした。

失敗は脳の最高のエクササイズ

脳が成長する過程な必要なのは脳への「刺激」です。
第二ブロックの「移行期」ではそれまでに入力した膨大な回路の中から、要らない回路を見極めて、必要な回路だけを残している作業をするのですが、その時に不可欠なのが「失敗」です。人間は失敗して痛い思いをすると、その晩「眠っている間」にその失敗体験の関連回路の閾値(いきち:生体反応が起こるための最低値)が上がり、電気信号が行き届きにくくなります。つまり、失敗体験は、一晩越すと「重要なデータ」として脳に刻まれ、その失敗を繰り返さないよう、脳をアップデートすることができるのです。

この話は以前読んだ『習得への情熱』のジョッシュ・ウェイツキン氏が書いていた「負の投資」の話とも繋がります。ジョッシュ氏が失敗、苦労の体験を積み重ねる「負の投資」により、圧倒的な強さを習得する、という話でしたが、身体と共に脳への刺激がその背景にあったのです。実際、偉大な挑戦者は皆失敗を重ねて大きく成長しています(4回転ジャンプに繰り返しトライした羽生結弦など)。それは、彼らが失敗の先にある成功体験を知っているからです。そして、いわゆる「頭のやわらかさ」を作り出すのもやはり失敗体験が作り出すのだそうです。

そう考えると、私たち親が、子どもに対してついやってしまいがちな「転ばぬ先の杖」は全くもって、余計なお世話だということがわかります。子どもたちに対して、私は今でも日々「宿題はやっているだろうか?」「このままで大丈夫なのか?」など心配が尽きませんが、失敗を重ねてこそ脳も成長するのであれば、それを見守るしかありません!むしろ人の失敗を「横取り」するくらいした方がいいのでしょう。

本質の回路~人生の最高潮期は56歳から!

第三ブロックはこの本のタイトルである「成熟脳」の真骨頂。
五十代になると、脳が十分に「失敗しにくく、成功しやすい」状態になってくるといいます。これはそれまでに膨大な失敗から得た成功体験を重ね、脳の回路が「完成型」に仕上げられるからですが、脳の成熟のためには、前述のようにどれだけ多くの苦難、失敗を乗り越えてきたか、ということが不可欠だといいます。このことは脳科学的には「苦難を乗り越えて、頭が良くなったから成功した」と言うのだそうです。やはり、苦難や失敗は買ってでもした方が良いということがわかります。

本書ではこのブロックは「脳の人生最高潮期」として、56~84歳まで続くといいます。さらに。脳はこの後、第四ブロックとして、112歳までを射程範囲に入れているとのこと。本書では「現役のまま九十代に突入すると、脳の一部が若返るという所見まである」と書かれています。まだまだ私の脳は道半ばであり、少なくとも56~84歳までの「脳の成熟期」を丸ごと享受できるだけでなく、まだ「その先」もあるとは、何とも夢のある話ではないでしょうか。

脳は寿命を知っている?

本書ではヒトは生まれた時に「脳のゴールを知っていて、そのゴールに合わせて、自分の脳や体を静かに折りたたんでいくのではないか」という仮説が書かれています。その人それぞれの脳の寿命に合わせて、思念空間も調節されているのです。

これは例えば、早く逝く人は、死に向き合うもうもっと前から成熟が加速しているとか、脚が弱ってしまった人が「地球の果てにまで行きたい冒険心」があったら、きっと辛くて仕方がないから、脳は思念空間を小さく折りたたみ、家の中のことくらいしかわからなくなるようにする、というようなことです。

また、いわゆる「痴呆」もその意味では「脳が穏やかに終焉を迎えるために想定内で仕掛けたイベント」に位置づけられるとのこと。年を取り、世の中のことが分からなくなったり、物忘れをしたりするのには、その理由があったのです。このように考えると、それぞれの人がそれぞれの脳の「寿命」に合わせ、その脳が決めた人生を堪能するように機能しており、いわゆる「寿命」が長いか短いか、はあまり関係がないということになります。

終わりに

本書を読み、人間の脳がそれぞれの時期にそれぞれの役割があり、それをあらかじめ理解しておけば、もっと人生が生きやすくなる、人のことも理解しやすくなる、と感じました。何より自分自身、これから脳の「成熟期」を丸ごと享受できること、そのためにする「負の」経験は、何ら恐れることはない、ということが分かったことは大きな希望になりました。

そして、その時により脳を賢い状態にアップデートすることができるのなら、今からだって失敗、苦労をしてみようかな、という気にすら思えますし、子どもたちを見て、歯がゆく思ったり、ヤキモキすることも減りますね!

そして脳はそれぞれの寿命に応じたスピードで機能しているなど、私たちが思っているよりずっと賢く、いかようにもカスタマイズできる器官であるということがわかりました。脳を正しく、有効に機能させる方法を知っているのと、知らないのとでは大違い。あなたも今日からここに書いたことを少しだけ、意識して生活してみませんか?

成熟脳: 脳の本番は56歳から始まる

 

 

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この記事を書いた人

米・ニューヨーク在住。ストーリーを使った「ストーリートーキングⓇ講座」認定講師。スピーチコミュニティ「伝わる!スピーチ道場」主宰。
こちらのブログでは「ストーリーテリング」、「スピーチ」を中心に、書くことで人の強みを発掘し、話すことで相手の心を掴む話し方、をテーマに書いています。

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