脳も体もバランスが大事
①では「脳にいい暮らし」や「生きがい」などについて触れたが、脳の活性化のためには運動も有効である。
脳の認知機能を高めるのに特に最適なのは「ドリブル、平均台などバランスをとる運動」だという。本書では「脳活ドリブル」というコーディネーション運動(リズム、バランス、反応、識別など、複数の動きを同時にする運動。脳から体への伝達速度をよりスピーディに、より正確にする効果がある)が紹介されている。また、ダンスはコーディネーションを構成するあらゆる要素をほとんど使う運動として、「脳活の極み」だという。
運動以外でも脳を鍛える方法がある。YouTubeなTwiitterなどのSNSを日常生活に取り入れたり、語学や資格取得のためのの勉強、トランプの「神経衰弱」などでトレーニングをするのだ。これらは脳を活性化したり、脳の柔軟性を高め、記憶力を上げる効果がある。このことで脳の前頭前野の左右が使われると、認知スコアが上がったり、作業効率が高まるという。
また、本書では「老人脳」の進行度チェックとして「目をつぶって片足立ちで30秒立つ」というテストが紹介されている。目を閉じることにより、視覚情報ではなく、「本当の身体のバランス感覚」で立とうとするからだという。仮に目を閉じて30秒立っていられなくても、立てるようトレーニングをすることで、脳を鍛えることができる。「片足立ち」は手軽に練習できるうえにバランス能力の向上のほか、転倒防止効果があり、死亡率の低下にも貢献する万能なスキルなので、是非日常生活に取り入れたい。
「プラス」の効果
老人脳の予防には、言葉の使い方も大事だ。脳にはマイナスよりプラスの言葉の方が良いということは何となく察しがつくが、研究結果からも、ポジティブな言葉を使うような楽観性の高い人は認知症のリスクが低下することが分かっているという。
最初からポジティブな言葉を発することに越したことはないが、それでもつい「疲れた」、「もうできない」などの言葉が出てしまうことはあるだろう。そんな時にも方法がある。具体的には、例えばマイナスの言葉を言った後、「でも」を付け加えることでマイナス言葉をプラスに変え、気持ちが前向きになる効果があるという。例えば「疲れた。でもがんばった。」、「疲れた。でもその分成果が出た。」という具合だ。脳は文章の一番最後にきた情報を印象に残しやすい、という性質があるため、これからのポジティブな言葉がプラスに作用し、想像以上に効果があるという。
この「ポジティブな言葉の持つプラス効果」は認知症だけでなく、実際のスポーツなどでのパフォーマンスにも効果があることが紹介されている。同様に「ありがとう」という感謝の気持ちも不安などのネガティブな感情をかき消し、良い作用をする効果があるという。例えば、マラソンの走行中、疲れて、「もう走れない」と思うような状況でも、沿道の応援を見て、感謝の気持ちを抱くことでパワーが出てくる、というのが良い例だ。
また、本書ではスポーツや日常生活で「擬音語」の持つ効果についても紹介されている。たとえば高齢者であれば、歩くのがしんどい時、「サッサッサッ」「トントントン」など、スタスタ歩けるイメージの言葉(擬音語)を使い歩くだけでつらさが軽減される場合もあるという。これは「擬音語を発することで、脳が指令を出し、抑制しているリミッターを外し、筋肉の限界まで力を出せるようになる」からだそうだ。スポーツ選手が競技の際に発する「声」もこれに該当する(「シャウト効果」)。是非、日常で自分が気乗りしない場面で、こうした擬音語を取り入れていきたい。
休め、遺伝子
本書では「自分を大切にすること」にも触れている。脳の活性化のため「新しいことにトライする」一方で「頑張りすぎないこと」も推奨している。「無理をすると脳はストレスを感じ、そのストレスが脳の老化を速めてしまう」、のだという。また、イライラしている時の高齢者の脳も左脳ばかりが働いている状態で、バランスが崩れているという。前述の通り、脳も体も、左脳と右脳のバランスの取れた状態が良い。
また、最近「長寿遺伝子」におけるすごい発見として「レスト遺伝子(休め遺伝子)」という中高年特有の遺伝子について紹介されている。これは中高年になると、若いときのような情熱、やる気が薄れてくることがあるが、これは「自分に無理をさせないための防御機能」が働いているためだという。つまり「昔ほどの情熱、モチベーションがない」とか「やる気が出ない」という状況は自分の脳と体を守るために必要な遺伝子の働きなのである。実際にこの「休め遺伝子」は、脳の老化を抑え、アルツハイマー型認知症を予防する働きがあるという。
最後に
本書を読んで感じたこと。年齢を重ねて、脳のある一定の機能が衰えていくことは避けられないが、自分の年齢でもまだピークを迎えていない脳の能力があること、は勇気をもらえる話だった。特に自分が今後取り組んでいきたい、と思っている「ものを書いたり、表現するということ」は脳的には「まだ、これから」「伸びしろがある」ということだ!
また、「以前よりやる気が出ない」「頑張れない」という状況を歯がゆく思うこともあったが、これらは「自分を守るため」に遺伝子が作用していることだと思うと、「以前と同じペースで」走り続けられない自分を責める必要はないし、同時に家族をはじめ、周囲の人に対する理解も必要だと思った。
日々の生活への「少しの刺激と変化」を心がけるとともに、家族をはじめ、周囲の大事な人たちへと繋がること、自他への「愛情」を忘れずに生きていきたい。
80歳でも脳が老化しない人がやっていること(西 剛志 著)
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